第32章 夏油傑 花火
「お前ら遅すぎ。
誰だよ、みんなで花火見たいっていったやつ」
「もう始まるぞ~」
「いよいよですねっ!みんなで写真撮りましょ!」
「出る前に撮ったじゃないですか…」
五条先輩、硝子先輩、雄くん、七海くんと合流し、川やビルに反射して大きな花火が打ち上がる。
この夏しか見られない風景を見上げていると、傑先輩が無言で手を少しだけ強く握ってくる。
「…来年もみんなで見に行きたいですね」
「ああ…」
先輩は今なにを思っているのか知りたい。
少なくとも花火に感激しているようには思えなかった。
傑先輩の横顔を見ていると、切ない気持ちになってしまうのは何故だろう。
打ち上げ花火が終わるとごった返すように人の波に乗って落ち着くところまで歩き、傑先輩はみんなに断ってから私の手を引いてただ無言で歩く。
「なまえ」
立ち止まった先輩は真っすぐな目で見詰めてくる。
「この先もずっと君と同じ夏を見ていたい。
君を必ず幸せにするから私と家族になってくれないか」
突然の傑先輩の告白に頭が追いつかない。
喜ぶよりも涙が出てきて何度ぬぐってもあふれて嬉し涙が止まらない。
「先輩と…ずっと一緒にいたいですっ…」
抱きしめ合ってキスをして、その夜は寮には帰らずホテルに直行する。