第1章 東卍童話パロ ヘンゼルとグレーテル
「うめーなコレ。ハラ減ってっから二割増しで美味く感じるワ」
話し掛けても反応がない弟を見やると、彼は無心でもぐもぐと家を食べ進めていて、スマイリーが止めにかかります。
「…おいアングリー、食い過ぎだ。家が壊れちまうよ」
「オレだけのせい?スマイリーだって食ってんじゃん」
「もう行くぞアングリー」
「ええー、もっと食べたいー」
マシュマロを片手にもぐもぐするアングリーを引っぺがしながら立ち去ろうとした時、低い声が聞こえました。
「オレの家をかじってんのは誰だ…?」
奇抜な髪型をした、目つきの悪い大柄なおばあさんが家の扉を開けて出てきました。
「げっ…住人にバレたぞぉ」
「あ…ごめんなさい、とてつもなくお腹がすいてて」
アングリーが正直に謝ります。すると怒られるかと思いきや、おばあさんは自慢気に話し始めました。
「オレの家は美味いだろ?」
「クリームが最高です。甘過ぎず、まろやかで」
「屋根を支えてるビスケットは食うな。それ食ったら家崩れちまうよ」
ひとしきりお菓子の家の話をした後。
「…ハラ減ってんなら、もっと美味いモン食わしてやるよ。中入れ」
そう言っておばあさんは家の中へ招いてくれました。
美味しそうな可愛らしい外観とは打って変わって、内部は暗く殺風景で不気味な雰囲気に満ちています。それでも、言葉通りおばあさんは夕飯の支度を始め、美味しい食事を分け与えてくれました。
「オレは武藤泰宏…ムーチョでいい」
夕食を共にしながら互いに自己紹介をしました。
「オレは河田ナホヤ。オレが兄だぞ」
「河田ソウヤです」
「寝床を用意してやるから、それ食ったら休んでいけよ」
夕食後、あてがわれた部屋で二人は感想を言い合います。
「ご飯くれた…いい人なんじゃない?」
「いーや、なんか怪しくねえか?臭えぞお」
ムーチョを信じきっている弟とは違い、兄はうますぎる状況に疑いを抱いていました。
「明日ちょっと、色々調べようぜ」
翌日、探検がてら廊下を進んで、部屋を片っ端から調べて回ります。
すると一番奥の部屋から、見たこともないようなまばゆい光を放つ財宝が出てきました。キラキラ輝いてとても価値がありそうな代物です。