第2章 削り節おむすび(おかか味)
それから何日もせっせと歯ブラシと歯磨き粉の生産に追われる日々が続いた。私のいた時代ならベルトコンベアを取り付けた工場で大量生産なんか簡単だろうけどこの時代にはそんな機械もないし作ることもできないので自力でなんとか頑張った。綾さんから台所をお借りしてせっせと歯磨き粉を作る。午前中の暑くない時に竹を取りに行って取った分だけ新しい竹を植える。そして山を下って家に帰宅してせっせと歯ブラシと歯磨き粉を作る。一日に作れるのも限度があるので売り切れ次第に終了となるのだ。
本当はもっと沢山作って売りたい所だけどこれが限度なのだ。溜まってきた小判で家を買おうとしたけど綾さんと吾郎さんが土地を買ってお店を作るまでウチにいたらいいよと言ってくれた。ものすごくありがたいけど返って申し訳ないと伝えたら二人揃って私の計画を応援している、軌道に乗るまで食事やお風呂は援助するからと言ってくれた。
そんな今は売り上げの一部を綾さんと吾郎さんに託して食事代と入浴代は支払えるまでとなった。あとは貯金すべく綾さんに相談して家の床下に小判を置かせてもらっている。
綾さんから床下に金庫があるからそれに入れるといいよと言われたからだ。
そしてこの日も私の売りは大盛況となった。
そんなある日のことだった。
「いらっしゃいませー。最新式の歯ブラシと歯磨き粉はいかがですか?」
いつものように私が大きな声で商品を宣伝していると白い馬に乗った男性がお供を引き連れてやってきた。
「庶民の間で評判だという歯ブラシはこれかね?」
「はい、こちらにございます。ひとつずつ手作りのため売り切れ次第に終了にございます。まだいくつかあるのでよろしかったらお手に取ってみてください。」
私が歯ブラシを差し出すと男性はマジマジと歯ブラシを見つめてから歯磨き粉は何で作ってあるのかと聞いてきた。私は丁寧に説明してあげた。
あれ?この方ってもしかして??
「あの、つかぬことお聞きしますが徳川家康様でいらっしゃるでしょうか?」
私が申し訳なさそうに聞くとお供の人がそんなこともわからんのかと私に聞いてきた。
「まぁまぁ、いいじゃないか。これお供は下がってなさい。」
「お会いできて嬉しゅうございます。」
そうなのだ!あの徳川家康様が私なんかのためにわざわざ訪ねてくださったのだ。嬉しさのあまりに私が涙を流していると家康様は微笑んでくれた。