第2章 削り節おむすび(おかか味)
「行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
吾郎さんは朝食時に励ましの言葉をかけてくれた。そして私が家を出る時に綾さんがお見送りしてくれた。
私は机を広げて傘を差して歯ブラシを並べた。小判を入れる箱も作った。
「いらっしゃいませ。最新式の歯ブラシはいかがですか?一本一本手作りです。興味のある方はぜひぜひ手に取ってください。」
値段は綾さんや吾郎さんにも相談させてもらい、江戸で売っている歯ブラシと比較して決めた。私は大声で町行く人々に声をかけて宣伝を行った。
しかし誰も見向きもしなかった。
実はこのふた月の間に歯ブラシだけではなく歯磨き粉事情も調べていた。この時代の人は唐辛子にハッカを混ぜたものを使っていたらしい。そこで私の時代に使っていた歯磨き粉を調べていた。幸い、高校のお昼の後に歯を磨くために歯ブラシセットを鞄に持ち歩いていたので歯磨き粉を取り出して成分を調べていた。まずはメントール。メントールはアルコールの一種の有機化合物らしい。その他には洗浄剤や水酸化ナトリウム液、粘結剤なんかも入っていた。
そういえば歯磨きってキシリトールのイメージが強いけどキシリトールってなんだろう?
ああ、こんな時にスマートフォンで調べられたらいいのにとふと思う。しかしここでは電波が届いておらず使い物にならない。
そこで考えたのが植物を擦り合わせて作るのはどうかということだ。キシリトールは大抵がミント味やソーダ味で出来ている。なら、それに似た植物を探して擦り合わせたらどうかと思った。私は植物に詳しい人を探してどの植物が口に入れても大丈夫かどうか教えてもらった。色んな人に聞き込んでやっと探した人は老人であったが、快く教えてくれた。
歯ブラシのみならず、歯磨き粉の改良にも精を出した私はついに現代の知恵と江戸の生産物で歯磨き粉も作ることができた。
今みたいにチューブタイプとはいかなかったが、小さな丸いケースに入れて歯磨き粉も販売した。
一週間もしない間に私の販売物は噂が広がり、人だかりができて沢山の人が買ってくれることになった。
やがて、人気に火がついてしまい生産が追いつかずにてんてこ舞いな暮らしが待っていた。その間に小判は沢山溜まっていった。
この仕事にやりがいを感じてとても嬉しかった。
そして稼いだ小判で着物と髪結を買うことができたため、今まで着ていたのは綾さんにお返しした。