第2章 削り節おむすび(おかか味)
「あの、暫くお世話になると思いますけどそれまでよろしくお願いします。」
私は野菜を洗い終わって丁寧にお辞儀をして帰宅した。女性達は冷ややかな目線を私に送りながらぎこちない返事を返してきた。
それもそのはずだ。女性が働くと言ってるんだからこの時代において珍しいことなのだ。それだけこの時代の女性は肩身の狭い思いをして過ごしているに違いないと私は思った。
冷ややかな目線をされても今はいいと思った。それでも私は計画を実行したかった。
帰宅してからは綾さんに教わりながら夕食を作った。
この日は吾郎さんの給料日らしく野菜を入れた混ぜご飯を作ると言っていたからだ。今でいう炊き込みご飯のことだ。
お米の研ぎ方も私の時代と少し違っていて面白かったし、お釜で炊くご飯にも慣れてきた。
昔の人はご飯を炊くのに薪を割り、火をつけて薪をくべてとやることが手間暇で大変だなと思った。しかし、炊き上がったご飯はその分つややかに光り輝いていて努力の賜物だと私は思った。
夕飯の時間に吾郎さんが帰宅して三人でお膳を囲んだ。
「いやー今日の穂乃果さんは凄かったね。あの御役所さんが折れたんだから大したもんだよ。」
「それはすごいわね。それでどんな手を使ったんだい?」
綾さんににんまりされてドギマギしながら答えた。
「いやいやー、えっとどんな手って詐欺師じゃないですよー。竹を取りたいことを熱く語っただけですって。」
夕食の片付けが終わり、この日は綾さんと吾郎さんと近くの銭湯に向かった。
いつもは外にある五右衛門風呂に入っていたけどこの日は銭湯に行くことになったのだ。
「そんじゃこれで!」
銭湯の入り口で吾郎さんと別れた私は綾さんと女湯に入って行った。
「うわぁ、すごい!」
令和の時代でも銭湯が残っているところもあるがだいぶ減ってしまった。テレビや雑誌では見たことあったけど実際の銭湯に入るのは初めてだった。着替えてお風呂場に入り掛け湯をして浴槽に浸かった。
「いつもここは混んでるのよ。今日は少し空いてて幸運だったわね。」
「そうですね。あの、お聞きしたいんですけど髪結はいつもご自分でされてるんですか?」
「そうよ。」
「あの、今度でいいので髪結のやり方を教えて頂けないですか?」
私の要望に綾さんはニッコリしていいわよと言ってくれた。
それから頭や体を洗い入浴を済ませた。