第2章 削り節おむすび(おかか味)
「聞いたことのない遠い場所から来ました。日本の端の方です。」
日本の端の方というのは完全なる嘘だ。しかしこれしか私には思い浮かばなかった。
「ふーん。なるほどね。まぁ、それはいいとしてだな。山で竹を取りたいと言うことだが無理だろう。」
御役所の人はため息をついてそう言った。
「どうしてですか?竹を取ったらその分、新しいのを植えてあげればいいじゃないですか?何も取ってそのままとは考えていません。」
私は両手で机を思いっきり叩いて叫んでしまった。もっと冷静になって話せばよかったのかも知れないが、そんなことは頭になく竹を取りたいとの思いが強かったからだ。
「ダメなもんはダメなんじゃ!帰ってくれ!」
やっぱり職を当たってアルバイトしなきゃダメなのかな?とも少し頭によぎったが、私の意志は固く竹を取りたいと必死に訴えたら御役所の人が山の管理人に問い合わせてくれると言ってくれた。
「ありがとうございます。」
私は何度もお辞儀をして御役所を出て行った。
この日は早めに帰宅したので綾さんの手伝いに徹することにした。
「ただいま戻りました。御役所の人が山の管理人に問い合わせてくれることになりました。」
「それは良かったじゃない。」
「あの、何かお手伝いできることはありますか?できることはなんでもします!」
私がハキハキとそう言うと綾さんは大きなオケを私に差し出した。そこにある野菜を川先で洗ってきて欲しいの。ほら、女性達が同じ方向に向かってるから行ってらっしゃい。」
「わかりました。行ってきます!」
私はそう言ってオケに大根とにんじんと葉野菜を入れて女性達に混じって歩き出した。
暫くして川先に到着して野菜を洗い始めた。
すると周りの女性達が話しかけてきた。
「随分と見かけない顔だね。この辺の人かい?」
「いえ、遠い地から旅してきました。今は綾さんと吾郎さんの所でお世話になってるんですけど、ゆくゆくは自立していきたいので今は仕事を始めようとしてる所です。」
「へぇー。」
私の受け答えに女性達が驚いた。
「仕事って何の仕事をするんだい?」
すると一人の女性が私に聞いた。
「山から竹を切ろうと思っています。やりたいことが見つかったので今は交渉中なんですけどね。」
私の答えに偉いわねーと言う人もいればおなごが働くのかと冷ややかな意見も飛び交った。