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【鋼の錬金術師】紅の幻影

第4章 錬金術師の苦悩





司令部に着き、私は大佐がいる執務室へと真っすぐ向かう。
ノックをすれば中から「入りたまえ」と声が聞こえ、静かに扉を開けた。

「やぁ、じゃないか。傷の具合はどうかな?」

にこやかに笑う大佐の質問には答えず「タッカー氏についての資料、全部見せていただいてもよろしいでしょうか」と尋ねれば、「…………少しまちたまえ」と大佐の目つきが変わった。
何かを感じ取ったに違いない。
普段は、おちゃらけていてふざけることも多いけれど、この若さで大佐という地位まで上り詰めた人だ。
仕事の有能さはよく知っている。

数分後、大佐は何冊ものファイルを持ってきてくれた。
それら全てに目を通していく。

「2年前、人語を使う合成獣の錬成に成功……それ以来、去年の査定も含めて成績は芳しくないのですね」

今年失敗すると国家資格を失う。
タッカーさんの目の下の隈が頭に過る。
ここ最近ずっと研究室に籠って没頭していたに違いない。
追い込まれているのは目に見えてわかる。

にしても、タッカーさんが提出した過去の研究データ。
「人語を話す合成獣の錬成に成功」という偉業の割に、資料があまりにも少なすぎではないか。
研究材料も研究過程も何一つ書かれていない。
いくら暗号化しているとはいえこんな研究データがあっていいはずがない。
なにか、何かがおかしい。
タッカーさんは何かを隠している。

だけど、なにも知り得ることができずただただ時間だけが過ぎていくだけだった。


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