第4章 錬金術師の苦悩
「……お、かあさん……」
その時、小さい声が聞こえた。
私の膝で寝ているニーナさんの寝言だと気づくのにそう時間はかからなかった。
そう言えばタッカーさんの奥さんはどこにいるのだろう。
「2年前に出て行ったんだとよ」
「え……?」
考えていたことが顔に出ていたのだろうか。
エドワードくんは本から顔をあげずにそう言った。
そう、か。
2年前に母親が家を出て行ってしまったのか。
こんな広い家に父親と二人だなんて。
だから彼等はニーナさんと一緒に遊んであげていたんだ。
幼い少女の寂しさを少しでも紛らわせるために。
…………2年前?
確か、タッカーさんが人語を理解する合成獣の錬成に成功したのは2年前だったはず。
なんだろう、このモヤモヤとした気持ちは。
ちくっとした痛みがずっと続いているような、気持ち悪さは。
「」
「なんでしょうか」
「本当に大丈夫なのか、顔色が悪いぞ」
考え事をしていたせいで、どうやら私は眉間に深く皺を寄せていたらしい。
それがエドワードくんには具合が悪いと思われてしまったようで、資料から顔をあげたエドワードくんの顔は酷く心配していて、大丈夫だと言ってもきっと信じてくれはしないだろう。
体調方面は本当に大丈夫なのだが、昨日のこともある。
自身の身体の事を言っていた方がいいかもしれない。
今後、似たようなことが起きないとは言えないしその度に彼等に余計な心配をかけるよりはきっとましだ。