第4章 錬金術師の苦悩
「………っ!!」
あまりの恐怖から目を覚ました。
動悸が激しい。
腹の奥がぐるぐると蠢いて気持ち悪い、吐きそうだ。
口元を抑えて、ゆっくりとベッドから足を下ろした。
そう言えば、私ソファで寝ていたはずじゃ。
いつの間にベッドで寝ていたんだろう。
真っ暗な部屋の扉の隙間から光が漏れているのに、その時漸く気が付いた。
微かに鼻歌が聞こえる。
リザさん、帰って来ていたんだ。
音を立てずにリザさんのいるキッチンへ向かうと、気配で気が付いたのか、彼女はゆっくりと振り向いた。
「怖い夢でも見たの?顔色が酷いわ」
その姿に、声色に、母親の姿を重ねた。
泣き出したくなる衝動を抑えて「大丈夫、です」と答えるだけで、精一杯だった。
「ご飯、食べられる?」
「少しなら」
「そう、よかったわ。汗をかいたでしょう、先に着替えて着なさい」
「リザさん」
「なに?」
今日、一緒に寝てくれませんか。
そんな子供じみた言葉を私は飲み込んだ。
また眠ってしまったら、さっきの夢をまた見てしまいそう。
怖い夢を見たんです、本当は。
大丈夫なんかじゃないんです、本当は。
怖くて、怖くて、仕方がないんです。
でも、そんなこと言えないから、私は口を噤んだ。
「今日、私すごく疲れているからベッドで寝ようと思っているんだけど」
「え?」
「でも病人のあなたを差し置いて寝るわけにはいかないでしょう」
「………じゃあ、私がソファで……」
そう口にして気が付いた。
ああ、違う。
リザさんは、待っているんだ。
震える唇を噛みしめて、
「じ、じゃあ……一緒に、寝ませんか。私、も、ベッドで寝たい、から……」
「あら、そうしたらお言葉に甘えさせていただくわね」
甘えているのはいつだって私の方だ。
静かに流れる涙を拭って、私は小さく頷いた。