第2章 炭鉱の街
その時、鼻を掠める焦げ臭い匂いに気が付いた。
臭いのする方へ目を向けると、店の奥から黒い煙が立ち込めている。
「みなさん!!早く外に避難を!!」
私の声に街の人たちも漸く煙の存在に気が付いたようで、慌てて店の外へと飛び出した。
店の裏側へと回れば、既に火の手は回っておりどんどん火は大きくなり店を赤く染めていく。
全員で消火活動を始めるが、勢いづいた火はなかなか消えることなく結局全部消える頃には店は跡形もなく燃えてしまった。
残ったのは、店の看板だけ。
焦げた看板を大事そうに抱きしめ涙を流す奥さんに胸が痛む。
誰がこんなことをやったのか、考えなくてもすぐにわかる事だ。
ヨキ中尉がやったんだ。
なんてひどいことを……。
握りしめた掌は爪が食い込み血が滲んだが、そんなことはどうでもよかった。
「なにがあった」
「エドワードくん」
「……、大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。なんでそんなことを聞くんですか」
「いや、だっておまえ……今にも人を殺しそうな顔してるから……」
エドワードくんにそう言われ、この時漸く気が付いた。
ああ、そうか。
私は今とても腹を立てていて、ヨキ中尉やその部下を殺したいほどの衝動をこの胸に抱えているんだ。
でも、そんなことはできないから、理性が私の衝動を抑えているんだ。
その証拠が、この掌の血だ。