第14章 鋼の錬金術師
遠くから足音が聞こえてくる。
こんな状態で戦っても負けるのは目に見えている。
どこかに身を隠さなきゃ。
そう思っているのに、身体が思うように動かなくて。
それでも少しでもアイツから逃げたくて。
雨でぬかるんだ地面に足がもつれてアルが転んだ。
助けようとしたけど、獣男にアルが捕まって、オレも蹴り飛ばされて地面に倒れた。
雨が、体中に残る生傷に沁みて、痛い。
「立て!」
獣男が叫んだ。
「戦え!」
もう、指一本動かせない。
でも、アルを助けなくちゃ。
アルがまだ捕まってるから。
「戦えぬなら出て行け!」
獣男の言葉にオレは立ち上がった。
こいつさえいなければ、こんな苦しい思いをしなかった。
こんな痛い思いも怖い思いもしなかった。
こいつさえ、いなければ……。
気づいたらオレはナイフを獣男に向けていた。
初めて獣男に向ける、殺意にも似た思い。
ただ、弟を護りたくて。
取り戻したくて。
ナイフが震える。
寒いからじゃない。
このナイフ一本で、獣男を殺してしまうかもしれない。
その恐怖で、身体が、心が―――。
獣男を睨みつけていたら、そいつはアルから手を放しオレ達から遠ざかって行った。
見逃した、のか……。
理由を探ろうにも、ずっと張りつめていたせいか気を緩めた瞬間、足元が揺れ視界が霞んだ。
地面に倒れた時にはすでにオレの意識は飛んでいた。