第12章 それぞれの行く先
「ヒューズさんの奥さんね、すっごい料理上手なんだよ。作り方教えてもらったから、アルが元の身体に戻ったら焼いてあげるね」
ウィンリィさんの言葉に両手を挙げてやったあと喜ぶアルフォンスくん。
なんて穏やかで平和な時間なんだろう。
歓びと嬉しさに満ちたこの空間がずっと続いてほしい。
彼らの未来が悲しみで溢れてしまわないように。
やっぱり、強くなりたい。
彼らの笑顔を護りたい。
「さん、食べないの?」
「はい、いただきます」
ひとり、決意を決めた私にアルフォンスくんが声を掛ける。
少しぬるくなってしまったアップルパイ。
だけど、口の中に広がる果肉の甘酸っぱさと生地の柔らかさは身も心も優しさで包み込んでくれる。
「美味しい……」
「だよなぁ……。……こういうのも"おふくろの味"って言うのかねえ」
エドワードくんはしみじみとそう語った。
おふくろの味、というのがどんなものか私は知らない。
けれど、もし、この味がそうなのだとしたら、そうであってほしいと願う。
それほどまでに、"愛"が詰まっているから。
「ヒューズさんも奥さんもエリシアちゃんも、すごくいい人だった」
「ヒューズ中佐って親バカで世話焼きでうっとーしいんだよなー」
「いつも病室に兄さんをからかいに来てたよね」
唇を尖らせるエドワードくんにアルフォンスくんが笑う。
エドワードくんをからかうヒューズさんとそれに反抗するエドワードくんは、まるで父と息子のように見えた。
その光景を思い出し、くすくすと笑う。