第12章 それぞれの行く先
急いで書庫へやって来た俺は書庫の扉を開けたまま電気もつけず、片っ端から昔の記録を集め、アメストリス全土の地図を広げる。
内乱や戦争、暴動などが起きたところを丸で囲む。
「イシュヴァールの内乱……、リオールの暴動……」
ここ最近起きたものも含め丸で囲み、そして線を引いて繋ぐ。
浮かび上がるその錬成陣に、もはや笑しかこみ上げてこない。
「おいおい。どこのどいつだ。こんな事考えやがるのは……。早く少佐と大総統に……」
瞬間。
書庫の扉が音を立てて閉まった。
気配に気が付かなかった。
驚いて扉の方を見ると、黒い服を身に纏った女がそこにいた。
「初めまして。それとも"さよなら"の方がいいかしら」
真っ赤な唇を歪ませる女の胸元にはウロボロスの紋章が刻まれていた。
冷汗が背中を伝うのがわかった。
「…………イカす入れ墨してるな、ねぇちゃん……」
自分の心臓が耳元で聞こえるが、恐怖に慄いている場合じゃない。
ここでくたばるわけにはいかねえんだ。
守らなきゃいけねえもんがあんだから。
腰に隠していた小型のナイフを女の眉間に向けて投げたと同時に、伸びてきた女の鋭い爪が右肩を貫通した。
鋭い痛みが右腕に走るが、立ち止まっている暇はない。
大総統府に電話をかけようと軍の回線を使おうとしたが、ふと思いとどまる。
ここでは記録が残ってしまう。
それは避けたい。
それに、大総統に"真実"を話してもいいのだろうか。
イシュヴァールを殲滅するように命を下したのは……。
全てのピースが繋がった気がした。
大総統にではなく、"俺"が信用している人物に「真実」を伝えなければいけない。
俺は軍法会議所を出て、外に設置してある電話ボックスへと急いだ。