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【鋼の錬金術師】紅の幻影

第12章 それぞれの行く先








先ほどの重たい空気は感じられない
その代わりに病室を漂う空気は……。

「……」

エドワードくんが私を呼ぶ。
熱を帯びた少年の声は私の身体に深く突き刺さり、身を捩って逃げたくても逃げられない。

私の頬にエドワードくんの右手が触れる。
冷たいはずの機械鎧が熱く感じるのは、私の頬が火照っているせい。
その手に頬をすり寄せ彼を見つめる。
ごくりと彼の喉が鳴ったのがわかった。

ゆっくりと、だけど確実に、近づいてくる。
自然と私は瞳を閉じていた。

その時だった。
17時を知らせる鐘の音が鳴り、病院内に響く。
私もエドワードくんも肩を大きく揺らし、二人だけの世界は現実へと引き戻された。

「あ、あのあのあの、私、書類……、書類を取ってこなくては……!!」
「お、オレも!!明日の準備、しねえと!!」

緊張と焦りと動揺が混じった笑みを浮かべ、慌ただしく病室を出た。
心臓を抑え、息を切らしながら受付へと向かう。
看護師さんに「廊下は走らないで」と言われたけど、今は立ち止まれない。
正常ではいられない。

落ち着け。
勘違いするな。
そんなの許されない。
わかっているでしょう。
気づいちゃいけない。
気づかれちゃいけない。
こんな感情、持ちあわせていいわけがないんだから。

何度もそう言い聞かせ、何度も大きく深呼吸を繰り返す。
まだ心臓は痛みはするけどさっきよりは落ち着いた、大丈夫。

甘い空気に流されたけど、自惚れるな、舞い上がるな。
彼の隣に立っていい存在は、私じゃない。




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