第11章 鋼のこころ
「錬金術において人間は肉体と精神と霊魂の三つから成ると言うけど!それを実験で証明した人がいたかい!?"記憶"だって突き詰めればただの"情報"でしかない……。人工的に構築する事も可能なはずだ」
「おまえ何言って……」
心の内に溜まっていたものが堰をきったように溢れ出す。
私は黙って彼の抱えていた気持ちを聞くことしかできない。
いや、私だけじゃない。
この場にいるみんな、そうだった。
「……兄さん、前にボクには怖くて言えない事があるって言ったよね。それはもしかしてボクの魂も記憶も本当は全部でっちあげた偽物だったって事じゃないのかい?ねぇ兄さん!!アルフォンス・エルリックという人間が本当に存在したって証明はどうやって!?そうだよ……ウィンリィもばっちゃんも皆でボクをだましてるって事もあり得るじゃないか!!どうなんだよ、兄さん!!」
ガンッ!!と大きな音が響いた。
アルフォンスくんの言葉を遮るように。
エドワードくんがテーブルを叩いた音だとわかるのに時間は要らない。
エドワードくんの小さな声が痛いほど聞こえる。
「―――ずっと、それを溜め込んでたのか?言いたい事はそれで全部か」
アルフォンスくんは何も言わない。
だけど、一度だけ小さく頷いた。
ような気がした。
エドワードくんもそれを感じたのだろう。
今までみたことない穏やかな笑みを浮かべた。
「―――そうか」
まるで、安心したような―――そんな表情に見えた。
エドワードくんはそのまま何も言わずに病室を抜けた。
傷付いた彼を癒すために追いかけることは簡単だ。
だけど、きっとたぶん。
追いかけるのは私じゃない。