第11章 鋼のこころ
グレイシアさんも寝室に行ったのだろうか。
シンと静まり返ったリビングは、何一つ音がしない。
ぼんやりと暗い闇を見つめる。
瞳を閉じて瞼の裏に映るのは第五研究所でのこと。
ここ最近バタバタしていてあまり考える時間がなかったから、漸く頭の中を整理できる。
第五研究所で会った彼らは私とエルリック兄弟の事を知っているようだった。
一体何者なのか、という疑問は考えても答えは出てこない。
何故私達の事を知っているのか、ということも。
軍上層部が私達のことを彼らに話したのか。
だとしたらなぜ、なんのために。
その時、頭の中にあの光景が急に流れ込んできた。
柔らかい感触、絡められた舌のざらつき、零れる甘い声が、唇に耳に脳裏に蘇る。
なんで彼は私にあんなことをしたんだ。
初めて会った人に初めてを奪われた。
初めてのキスは好きな人と交わしたかったのに。
しかもエドワードくんに見られてしまった。
恥ずかしさと悔しさと屈辱がふつふつと湧き起こり、私はソファから立ち上がった。
気持ちを落ち着かせるために、冷蔵庫から牛乳を取り出しホットミクルを作る。
ハチミツがあればハチミツも入れたいけど、どこに置いてあるかわからない。
明日グレイシアさんに聞いてみよう。
温めた牛乳をコップに注ぎゆっくりと飲み込んだ。
身体の芯から全身へと伝わる温もりにほっと息を吐く。