第11章 鋼のこころ
「あの、もしさんが…………」
何かを言いかけて結局彼は「やっぱりなんでもないです」と俯いた。
それ以上深追いするつもりはなかったから、私はただ「そうですか」とだけ返した。
彼が一体何に悩んでいるのかわからないが、もし「兄が怪我をした」というものだとしたら、その責任は私にある。
そうなると、私に相談はしづらいかもしれない。
アルフォンスくんの中でいろいろと整理がついて、話してくれるまで待つしかできない。
変に勘ぐって彼の不安定な心をかき乱す必要もないし。
大きく伸びをした時、視界に真っ青な空が映った。
柔らかく温かい風が身体を包み、無意識のうちに「気持ちいいですね」と声に出ていた。
「そう、ですね」
鳥のさえずりや遠くから聞こえる人の声や雑踏の音が心地よく、静かなこの時間はまるでリゼンブールにいた時と似たような感覚がした。
だから、少し歯切れの悪いアルフォンスくんにこの時の私は気が付くことが出来なかった。
「そろそろ戻りましょうか」
「ボクはまだもう少しここにいます」
「わかりました」
少し寂しそうなアルフォンスくんの背中を見つめ、私は屋上を後にした。