第9章 第五研究所
男は一歩一歩ゆっくりと私たちに近づいてくる。
たった今目の前で人を殺した人物に警戒心は高まり、私はエドワードくんを護るため、両手を広げて立ち塞いだ。
しかし男は口角をあげてにやりと笑って、首に腕を回して力強く抱きしめた。
「会いたかったよ、!」
甘えるような声で首筋に頬をすり寄せる男を引き剥がそうとするが、びくともしない。
人とは思えない力に私の心臓は警報を鳴らし続ける。
離してください、そう口を開いた瞬間だった。
柔らかい感触が私の唇を塞いだ。
目の前の男にキスをされていると気が付くのに数秒の時間を有してしまった。
何度も角度を変えて交わる口付けは、徐々に深くなっていく。
舌を絡められ、吸われるたび、口の端からどちらのものか分からない唾液が零れ落ち、漏れ出る甘い声や水音が響き、恥ずかしさと困惑で私の脳内は情報を上手く処理できずにいた。
漸く唇が離れた頃には、銀色の糸が二人を繋ぎ、私はその場に膝をついて倒れてしまった。
「もしかして初めてだった?」
嬉しそうに笑う男を睨みつけるが、多分この行為は男を喜ばせるだけだと頭ではわかっていた。
だけど、睨まずにはいられなかった。