第9章 第五研究所
「急になぜ……?」
訝し気にスライサーを見ると、彼は喉奥で笑い言った。
物心ついたころから盗み、壊し、殺してきたスライサー兄弟は、人々から人非人だ鬼畜だと蔑まされて生きてきた、と。
人としての心どころか、身体までも捨てた今になって初めて人間扱いされた、と。
面白い、と。
彼はそう言った。
彼の気持ちを私は知っている。
私も似たような事を昔言われたことがあるから。
その時に大佐たちに出会って、人として子供として扱われて戸惑ったけど、あの時私は、本当はすごく――――――……。
その時だった。
鋭い長い何かが、鎧の頭部を貫いた。
「あぶないあぶない」
暗闇から聞こえる女性の声に、緊張感が走る。
「あらら……。なんで鋼のおチビさんとがここにいるのさ」
その奥からもう一人の声が聞こえてきたけど、それよりもなんで私の名前を知っているんだ。
心臓が大きく跳ね、全身から血の気が引き、体中の細胞や皮膚が冷たくなるのが分かる。
危険信号が鳴っている、早く逃げなきゃ。
だというのに、逃げる算段が見当たらない。
「さーて、どうしたもんかね。この状況」
暗闇から姿を現した人物たちは、楽しそうに妖しく笑みを浮かべて私達を見下ろした。