第9章 第五研究所
「……人殺しはかんべんしろ」
「ふん。甘ったるい事を。こんな身体の我々が人とよべる代物か?殺すのではない。破壊しろと言っているのだ」
スライサーの言っていることは一般論であれば正しいのだろう。
例えば、人の姿を真似て作られた物を、「人間」と認識しないように、中身のない鎧の姿を、魂だけの存在を、果たして「人間」と呼べるのか。
そう問われたら、エルリック兄弟の事を知らない人はきっと「ノー」と答えるだろう。
だけど、兄弟を知っている者ならば、アルフォンスくんを知っている者ならば、たった一人の弟のためにその身を犠牲にしたエドワードくんなら、答えは違ってくる。
「あんたらの事を人間じゃないと認めちまったら、オレはオレの弟をも人間じゃないと認めることになる。オレの弟は人間だし、あんたらも人間だ。殺しはいやだ」
私が思うに"人間"という定義は人それぞれなんだと思う。
人の姿を真似た物だって、誰かから見たら"人間"であるように。
エドワードくんの"人間"という定義は他人よりも少しだけ広い、というだけだ。
エドワードくんの言葉にスライサーは声をあげて笑った。
彼の中で何かが変化したのか、先ほどまで頑なに口を割らなかった彼が、賢者の石について教えると言った。