第9章 第五研究所
アルフォンスくんに手伝ってもらい、私も排気ダクトの中へと身を潜り込ませた。
中は思ったよりも狭く、動くたびに胸やお尻がつっかえてしまい一歩進むだけでも大変なのに、埃やクモの巣だらけの排気ダクトは、呼吸をするだけで息苦しくすぐに意気が上がってしまう。
エドワードくんの姿はすぐに見つけることができたが、私よりも早く進んでいく彼との距離は広がるばかりだ。
こんなことを言ったらきっと怒られてしまうが、私よりも少し身長が低く体格も幼い彼だからあれだけすいすいと進めるのだろう。
「おい、大丈夫か?」
「私は大丈夫ですので、先に出口を探してください」
できれば早めに。
息が詰まってそろそろ本格的に苦しいしうえ、酸素が足りない。
「あ」
その時、エドワードくんが小さい声を漏らした。
どうやら出口を見つけたらしい。
ダクトカバーを外すエドワードくん。
彼が下に無事に降りたのを確認し私も下へと降りた。
建物内は、ドアや壁が破壊され地面には瓦礫がいくつも転がり資材も放置されているようだった。
崩壊の危険性があるというのは確かなようだけど、気になるのは……。
「足元が見える程度の照明がついてる」
「それに、廃屋にしては匂いが……」
「匂い?」
「長く使われていない廃屋には独特の匂いがあります。カビ臭さや悪臭が充満するんです。でも、その匂いが全然しない。それどころか、ほんの少し生臭さがします」
「……何が"現在使われておりません"だ。ビンゴだぜ」
顔に付いた汚れを拭きとるエドワードくんの言葉を聞きながら、この生臭さの正体に私は眉を寄せた。
何度も嗅いだことのある匂い。
忘れることのないない臭いに鼻の奥がツンとする。
「?」
その場から動こうとしないことを疑問に思ったエドワードくんが振り返る。
私は一つ息を吐いて「なんでもありません」と答えた。