第8章 賢者の石
長居しても、とのことでシェスカさんは最後にもう一度エドワードくんに頭を下げた。
シェスカさんは言った。
金銭のことも感謝しても感謝しきれないが、それ以上に本にのめり込むことしかできないダメな人間が誰かの役に立てたのがとても嬉しいと。
「ダメ人間じゃないよ。何かに一生懸命になれるって事は、それ自体が才能だと思うし。それにすごい記憶力あるし自身持っていいよ」
「ありがとう!」
アルフォンスくんの言葉はきっと彼女の心を救っただろう。
それが彼女の強みだと、彼女自身も気が付いたに違いない。
その時だった。
「よっ♪」
ヒューズさんがひょっこりと現れた。
「ヒューズ中佐!」
「ヒューズさん!!」
なんでヒューズさんがここに、という疑問は早々に晴れた。
どうやら息抜きついでに私達に会いに来てくれたらしい。
「少佐やから聞いてたんだが、俺も忙しくて持ち場を離れられなくてよぉ」
「帰ってくるのいつも遅いですもんね」
「本当は早く帰りたいんだが……。なんせ、最近事件やら何やら多くてなぁ。軍法会議所もてんてこ舞だ。タッカーの合成獣事件もまだ片付いてないし……」
「ヒューズさん」
「……っと、すまねぇ。嫌な事思い出させちまった」
大人にとってはあの事件は過去のものになりつつある。
だけど子供である彼らはまだ過去のものとして受け入れられていない。
もしかしたらこの先ずっと残ってしまう可能性だってある。
無理矢理納得しなくてはいけないと大佐は言うけど、時間をかけていいから少しずつ受け入れていけばいいと私は思う。
彼らの周りにはこれだけの大人がいるのだから。