第8章 賢者の石
私は、イシュヴァール殲滅戦の資料をかき集めた。
賢者の石は、あの内乱で大量虐殺の道具として使われていたとマルコーさんは言った。
極秘の研究資料の内容がここにあるはずもないが、何かヒントになりそうなものはあるかもしれない。
「……書いてあるわけないかぁ」
しかしどの資料にも賢者の石がもたらす力は書いてあれど、研究内容までは書いていなかった。
そりゃそうか。
そんなことしてしまえば、今頃みんな賢者の石を作っているし、兄弟がこんなに苦労することもない。
無駄足だった。
もしかしたらと期待していた分、落胆が大きい。
重たい足取りで軍法会議所を出ると、私が出てくるのをずっと待っていたらしいヒューズさんが「お疲れさん」と声を掛けた。
「待ってくれていたんですか?」
「まあな」
「すみません……。気づかずにずっと待たせてしまって」
「気にすんな。俺が勝手にやったことだ。それに可愛い娘を一人で帰らせるなんて、そんな危ないことはできないだろ」
大きな声で笑うヒューズさんに私は小さく笑った。
いつか私もヒューズさんのことを"お父さん"と呼べる日がくるだろうか。
弱虫な私の臆病な心が怖がっているせいで、彼らの家族になるのを拒んでいる。
「ヒューズさん」
「なんだ?」
「もう少しだけ待ってくれますか。もう少しで折り合いが付けれそうな、そんな気がするんです。そうしたら……」
私のお父さんになってくれますか。
その言葉が言えずに飲み込んでいると、ヒューズさんは「焦んなくていい。ゆっくりでいい。ちゃんと待ってるから」と優しい声でそう言ってくれた。
瞳から零れる一筋の涙は静かに私の頬を濡らした。