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【鋼の錬金術師】紅の幻影

第8章 賢者の石






「んで、軍法会議の資料が読みたいんだって?」
「はい」
「なんでまた」

先ほどまでの陽気な声とは違い、少しトーンの落ちた声色で尋ねるヒューズさん。
それもそうだろう。
軍の人間とはいえ、私は東方司令部の人間で誰かに命令されたわけでもない。
機密事項が記されたそれらは外に持ち出すことも許されない。
そのため、資料を見ることができるのは軍法会議所に勤めている人間かそれ相応の地位の人間だけだ。
つまり中尉である私がそう簡単に閲覧できるものではない。
マルコーさんの研究手帳の解読に、なんて言えるわけもない。
ここは無難に賢者の石について、とか言っておけばいいかな……なんて考えているとヒューズさんは私の頭に手を置いて「まぁ、深く理由は聞かないさ」と言い、軍法会議所に入ることを許してくれた。

「ありがとうございますっ」
「お礼は今晩、グレイシアの飯を食いに来ること。いいな」
「はい。必ず今晩お邪魔します」
「違う違う。お邪魔じゃなくて"帰る"、だろ?」
「……はい!」

私がなかなかヒューズさんの家に行かない事を逆手に取られてしまった。
行かないことに理由はない。
会いたいと思っているのは確かだし。
ただ、勇気がないだけだ。
あの家はとても温かいから。
望んでしまうから。
そうでありたいと、私の邪な欲望が溢れてしまう。
それを彼らはきっと受け入れるだろう。
優しい人たちだから。
それが私はとても怖い、んだと思う。
そうなってしまった時、大切にしていたものを手放してしまわないといけないような気がして。
それもまた私は……怖い。

なんて、ズルくて、汚くて、酷い人間なんだろう、私は。


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