第8章 賢者の石
丸焦げになった分館を前に、私はバリケードテープを潜り中に入る。
崩れやすくなっているから足元と頭上に気を付けながら私は火事の規模を確認する。
不審火だとロス少尉は言っていたけど、発火元はあるはずだ。
自然なのか故意なのか。
前者であれば運がなかったと割り切る事ができる。
だが、後者であれば……。
「何者かが関与している……?」
賢者の石についての資料の在り処はあの場にいた私と兄弟、そしてアームストロング少佐しか知らないはず。
だというのに、タイミングよく分館は燃やされ蔵書も塵となった。
見られたくないまたは知られたくない内容が記載されていて、彼らの手に渡らせないようにしたとなると辻褄が合う。
では一体誰がなんのために……?
中身を知られるとまずいことでもあるのか。
そもそもどうやって犯人は分館に蔵書があると知ったんだろう。
少佐が誰かに話すとも思えないしマルコーさんは尚更……。
スカー……?
いや、その方向は考えにくい。
「……軍の人間?」
可能性があるとしたらそれしかない。
軍の人間であれば、蔵書があることを知っている人間が一人や二人いてもおかしくないし。
だとしたら、尚更なんのために兄弟たちの邪魔をするんだろう。
考えても考えても答えはみつからない。
たぶんきっとその答えはマルコーさんの研究書にあるんだろう。
その答えを知った時に、犯人の思惑も分かるに違いない。