第8章 賢者の石
「あ……あの、その研究書を読みたかったんですか?」
「そうだけど今となっては知る術も無しだ……」
「私、中身全部覚えてますけど」
時間が止まった。
今、彼女は何と言った?
「一度読んだ本の内容は全部覚えています。一字一句まちがえず。時間かかりますけど複写しましょうか?」
「ありがとう本の虫!!」
喉から手が出る程欲しかったものが手に入る。
これほどうれしいことはない。
まさか、こんな特技を持った人がいるなんて。
自然と笑みが零れる。
「シェスカさん、本当にありがとうございます。感謝してもしきれません」
「い、いえ……!!こんなダメ人間な私でも役に立てるなら……」
少しだけ頬を赤らめるシェスカさん。
恥ずかしさと嬉しさが入り混じっているのだろう。
何かに熱中する事は悪いことじゃない。
その使い方を間違えなければ、彼女はどこにいても優秀な人材になるはずだ。
複写の邪魔をしないよう出来上がるまでの間、シェスカさんの家の掃除や家事などを担った。
私はというと、第一分館へと足を運んでいた。