第8章 賢者の石
「あああああ、すみませんすみません!!うっかり本の山を崩してしまって……。このまま死ぬかと思いました。ありがとうございます~~~!!」
「命があってなによりです。お聞きしたいことがあるのですが、シェスカさんはあなたでお間違いありませんか」
「はい、私がシェスカです」
崩れてしまった本を片付けながら、彼女は言った。
シェスカさんは本が大好きな人のようで、分館に就職が決まった時は嬉しく喜んだが、本好きというのが欠点となり仕事中に業務を忘れ本を読むことに没頭してしまい仕事をクビになったという。
病気の母を今の病院よりもっといいところに入れてあげたいから働かなくてはいけないのに……と嘆く姿に同情すればいいのか自業自得だと叱咤すればいいのかわからない。
「あーーー……、ちょっと訊きたいんだけどさ。ティム・マルコー名義の研究書に心当たりあるかな」
顔を覆ってしくしく泣くシェスカさんに、本来の目的を尋ねるエドワードくん。
彼女は目じりの涙を拭って、ティム・マルコーという名前を何度も口ずさんでは頭の中の記憶を探る。
そして、「はい、覚えています!」と答えた。
やはり彼の研究書は分館に置いてあったようだ。
ということは、それは火事と一緒に丸焼けになったことも意味している。
先ほどと同様に落ち込む兄弟。
でも、分館にあったことは確か。
あとはそれを読んだ事がある人を探してどんな内容だったかを聞いて……。
だめだ、現実的とは思えない。
そもそも本の内容を覚えている人なんてこの世にいないだろう。
我ながら考え方は甘すぎた。