第7章 家族の待つ家
どんな過去があろうと人の命を奪った事は到底許されることじゃない。
それを彼女は身に染みる程理解していることをオレたちは知っている。
彼女が自分自身を責め続けて後悔していることも、全部知っている。
「……」
おまえの泣いている姿、オレは見たくねぇよ。
おまえが苦しんでいる姿、オレは見たくねぇよ。
月明かりが彼女の身体を照らす。
浮かび上がる頬は涙で濡れていて、オレはそっとその後を指で拭った。
閉じた長く伸びた睫毛も、枕に広がる髪の毛も、こうしているとどこにでもいる普通の少女だ。
"雪女"と恐れられているなんて誰が思うというのか。
「……ん」
僅かに身をよじる。
オレの服を掴んで眠る彼女の姿があまりにも綺麗で、愛おしくなって……気づいたら、オレは彼女の額に唇を落としていた。
「…………」
自分でも驚くほどの甘ったるい声に、漸く自分が何をしたのか気が付いて、勢いよく後ろに飛びのいた。
お、オレは一体何を……。
き、きききききすなんて……オレ、が……に……。
なんでそんなことをしたんだ。
つうか、愛おしいってなんだよ、意味分かんねえ……。
え、オレ……のこと、そう言う風に……?
「そ、そんなわけねえ!!絶対違う!!」
そう叫んだ。
これはあれだ、あの、その………。
「あ、挨拶だ。そうだよ、挨拶だ。挨拶に決まっている」
自分に言い聞かせるように何度も声にだした。
母さんも昔、オレたちの頬にキスをしていたじゃんか。
それと同じだ、うん。
そう思いたいのに、未だに心臓は痛いほど脈打っている。
冷静になろうとベッドに入ったのはいいが、先ほどのことが脳裏を過るたびに悶え苦しんだ。
結局、一睡もできないままオレは朝を迎えたのだった。