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【鋼の錬金術師】紅の幻影

第7章 家族の待つ家






「………ひどい……戦いでした」

非常になりきれない心優しい性格の少佐はあの戦いで、女子供老人など無抵抗な民まで粛清される惨状に戦意喪失し戦線から外された。
復讐に駆られた私が言うのもなんだが、思い返すと本当にひどいものだった。

「だが、その戦いで手足を失った人があたしら義肢装具士を必要としてくれている。皮肉なものさ。戦で家族を失ったあたしらがその戦のおかげで飯にありついているのだからね」

私も少佐も何も言うことができなかった。
錬金術の基礎である「等価交換」だなんて、言えるわけもなかったしなによりそう思いたくなかった。

「おっと。飯と言えばそろそろ夕飯の支度をしなくちゃいけないね」

時計を見ると時刻は既に16時を過ぎていた。
そろそろどこか宿を取らなければいけないと思っていた私たちだったが、ピナコさんがこの家に泊まるといいと言ってくれた。

「遠慮するこたぁ無い。飯は皆で食べた方が美味いだろ。寝床も患者用のベッドが空いてるから使うといい。どうせあの兄弟もここしか泊まる所が無いんだ。何人泊まるも一緒だよ」
「泊まる所が無い……とは?エドワードくんたちの故郷というのなら彼らの家があるんじゃないんですか?」

ピナコさんの言葉に違和感を覚え疑問を口にすると、ピナコさんはキセルをふかせ、「無いよ」と答えた。

「あの子らには帰る家がない」

エドワードくんが国家資格を取って旅立つ日に、彼は自分の家を跡形もなく焼いたという。
なぜそんなことをしたのか、その理由を聞いてもエドワードくんは教えてくれないだろう。
でもきっと、エドワードくんのことだ。
生半可な気持ちで国家資格を取ったわけではないし、元の身体に戻る旅をしているわけでもないから、きっと帰る家を失くす事で、自分たちの道を後戻りできないようにしたんだろう。
なんて、なんて強いんだろう。

私にもその覚悟があれば……。

「…………ばかみたい」

そんな事ばかり考えてるから、私はずっと弱いままなんだ。

私のどうしようもない嘆きは誰にも聞かれることはなかった。
そのことに安堵し、軽く息を吐いた。


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