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【鋼の錬金術師】紅の幻影

第7章 家族の待つ家






おずおずと作業部屋に入ると、作業台にはたくさんの部品が並んでおり、油の匂いが鼻を掠める。
仕事の邪魔をしていないだろうかと不安になるが、彼女はあまり気にしていないように見えた。

「見ないうちに大人っぽくなったじゃないか」
「年だけ重ねました。私はあの頃から何も変わってません」
「ピナコ殿と知り合いか?」
「はい。昔、一度お会いしました」
「エドを国家錬金術師にスカウトしに来た時だから、もう4年も前になるのか」

そんなに経っていたのか。
彼等の護衛になってからそんなに日は経っていないというのに、出会ったのはそんなに前だとは。

「私のことは覚えていませんでした」
「ウィンリィも覚えていなかったね。それもそうだろうね」

目じりに皺を寄せて笑うピナコさん。
あの時は大佐とリザさんに着いて行っただけだから、影は薄かっただろうし。
あの日の事を思い出すたび、脳裏に浮かぶのは彼の力強い瞳。
きっと私は一生あの瞳を忘れることはないだろう。
まっすぐ未来を見据え、揺るがない信念を抱いた金色の瞳を。

「少佐、………」

昔の記憶に浸っていると、ピナコさんが静かに私達の名前を呼んだ。

「あの子らは毎日平穏無事に過ごしているだろうか」

それは遠く離れた子を思う親の心境だった。
手足を失い身体の全てを失い、それらを取り戻すためにまだ幼い彼らは故郷を飛び出した。
心配しないほうがおかしい。
それに、リゼンブールは緑豊かな田舎だ。
都会の情報なんてなかなか入ってこないだろうし、手紙も電話もしていないに違いない。
兄弟の性格を考えると、余計な心配をかけたくなくてそうしているんだろうけど、だったら電話のひとつでもすればいいのにと私は思ってしまう。



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