第6章 希望の道
無邪気に笑い合う兄弟を私と少佐は静かに見守った。
「殿は、元の身体に戻りたいと思わないのか」
「……大佐から聞いたんですね」
「うっ……」
「まぁ知られたところで別に構わないのですが。……そうですね。元の身体に戻りたいかどうか、というご質問ですが……戻りたいとは、思わないです」
「何故だ?」
「…………戻ったところで、本当に触れたい温もりに触れる事なんてできません。触れられないのなら、戻ったところで今の身体と何も変わらない。だったら、戻る必要性も感じない。それだけのことです」
「今後、触れたいと思う温もりに出会うこともあるかもしれんぞ」
ふふ、と少佐は小さく笑った。
彼の言っていることはよく分かる。
誰かを好きになって、誰かと恋をして、誰かと結婚して、誰かとの間に子供を産んで……。
たぶんそう言う事を言いたいんだろうけど。
今の私にその"誰か"というものが分からない。
見当もつかないし、想像もできない。
「そういう、もんですか?」
少佐は何も言わなかったが、ただ目元を緩ませて笑うだけだった。
「!!少佐!!汽車が来た!!」
「兄さん落ち着きなよ。急ぐ気持ちも分かるけどさ!」
「エルリック兄弟、少し声を落としてください。うるさいです」
「兄さんのせいでボクまで怒られたじゃないかっ」
「全部オレのせいかよ!!」
ぎゃーぎゃーと騒ぐエルリック兄弟を注意し、私達は汽車に乗り込んだ。