第6章 希望の道
帰り際、私は一つだけ聞きたいことを彼に尋ねる。
「あの、マルコーさん。一つだけお聞きしてもよろしいですか」
「なんだね」
「ルーク・アールシャナをご存じですか」
「!!」
大きく目を見開くマルコーさんは「知っているさ。私の部下だった」と言った。
「そうか、君はアールシャナ夫妻の……」
「です。・アールシャナです」
「……会えてうれしいよ。よく見ると、目元がソフィアくんに似ているね」
「よく言われます。母親に似ていると」
さきほどまで張りつめていた空気がこの瞬間穏やかになり、マルコーさんの顔つきも優しいものになった。
根っからの悪い人じゃない、この人は。
もし本当に悪い人なら、そもそも戦場から逃げるなんてことはしないだろうし、今こうして柔らかい笑みを浮かべることもない。
「確か、息子もいたはずじゃなかったかな。名前は……ノア、だったかな」
「はい。私の兄です」
「ノアくんは元気かな」
「…………イシュヴァールの内乱で、死にました……」
「……そうか」
兄の事を知っているということは、両親との仲は良好だったようだ。
兄が小さい頃はよく面倒を見ていたというマルコーさん。
活発な子だったと昔を思い出す彼の瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる。
「……マルコーさん、両親は……父と母は今どこにいるかご存じですか?」
「行方が、わからないのか……?」
「はい、もしかしたら知っているかもと思ったのですが、その反応をみると知らないみたいですね」
「すまない……」
「いえ……そんな気はしていました。……戦死したと思うことにします」
いつまでも生きていると希望を抱くのに疲れて来た。
両親は戦場で死んだ。
そう思うことで、重荷だった気持ちはほんの少しだけ軽くなった。
「ちゃん……」
「それでは"マウロ"先生、今日はありがとうございました」
深くお辞儀をして、私はその場を後にする。
少し先を歩いてるエドワードくんたちが私の名前を呼んでいる。
私は急いで彼らの元へと走り出した。