第6章 希望の道
「私は耐えられなかった……………」
当時のことを思い出しながら、マルコーさんはぽつりぽつりと語りだした。
「上からの命令とはいえ、あんな物の研究に手を染め……そして"それ"が東部内乱での大量殺戮の道具に使われたのだ……」
マルコーさんは言った。
無関係な人がたくさん死にすぎた、と。
平和に暮らしていた人々を殺し続けたことを後悔し、罪を背負うも全てを償い切れるわけではない。
それでもできる限りのことはやりたいと、この地で医者としてマウロと名乗っていると言う。
「いったい貴方は何を研究し何を盗み出して逃げたのですか」
同じイシュヴァール戦に参加していたアームストロング少佐ですら知らない極秘の研究。
それはつまり両親も一緒になって研究していたと言う事。
知りたいと思わないわけがない。
マルコーさんの言葉を私たちはただ待った。
眉間に手を当てて、苦しそうな表情をするマルコーさんだったが、意を決したように口を開く。
「賢者の石を作っていた」
それがマルコーさんと両親が行っていた研究。
兄弟が喉から手が出る程欲している代物。
「私が持ち出したのはその研究資料と石だ」
「石を持っているのか!?」
薬品が並んだ棚から一つの小さな小瓶を取り出し、私たちの前に差し出す。
ちゃぷんと音を立てるそれはどう見ても液体だ、石ではない。
マルコーさんはためらいもなく蓋を開けるとテーブルの上に垂らした。
「……え?」
「どういう……」
小瓶の中は確かに液体だった。
しかしテーブルの上に転がるのは、少しだけ柔らかさを持つ個体だった。