第5章 雨の後
「私は復讐のためにイシュヴァールの内乱に赴きました。内乱で殺された兄の仇を討つために」
私が戦場に行ったのは13歳のときで、ちょうど国家錬金術師が投入されて間もない頃だった。
復讐心に駆られた私はただただ殺戮を繰り返し、いつしか人の心を持たない"雪女"と謂われるようになった。
その後はヒューズさんの家に引き取られ、人体錬成を行い失敗し、軍に所属し今に至る。
「だからイシュヴァールの生き残りであるあの男の復讐には正当性がある」
大佐がそう言うと、エドワードくんは吐き捨てる様に「くだらない」と言った。
「関係ない人間も巻き込む復讐に正当性もくそもあるかよ。醜い復讐心を"神の代理人"ってオブラートに包んで崇高ぶってるだけだ」
「だがな、錬金術を忌み嫌う者がその錬金術をもって復讐しようってんだ。なりふりかまわん人間てのは一番やっかいで怖ぇぞ」
「なりふりかまってられないのはこっちも同じだ。我々もまた死ぬ訳にはいかないからな。次に会った時は問答無用で―――潰す」
そう。
なりふりかまっていられない。
私達には"覚悟"があるから。
だけど、人を殺す頃にためらいのあるエドワードくんとアルフォンスくんは、ただ黙って俯くだけだった。
君たちはそのままでいてほしい。
人を殺した時の感覚も、人を殺した時の記憶も、何も知らないままで、笑って生きて欲しい。
そのためにはいくらでもこの手を汚そう。
その覚悟がある。