第5章 雨の後
男の右腕がオレの頭に触れる。
「やめろ……やめてくれ……やめろおおおおおおおおおおお!!!!」
「殺させませんよ、彼のことは」
「「「っ⁉」」」
アルの悲痛な叫びを遮るように凛と透き通った声が響いた。
その声にまさかと顔をあげるとオレの目に映ったのは、雨を吸って重たくなったコートを脱ぎ捨てるの姿だった。
「……、おまえ……」
が生きていてほっとした。
嬉しいと言う感情が湧き起こるが、それは一瞬のことでコートの下の白いシャツは、頭や手足、体中の至る所から流れ出る血で真紅に染まっている。
ふらふらとおぼつかない足取り、立っているのもやっとじゃないか。
いいからもう動かないでくれと思うほど、彼女の姿は痛々しい。
それでもの瞳は力強くまっすぐに男を睨んでいた。
「……はぁ……、彼を……っ、殺す前に、私の相手を……っ……して、もらえません……か」
が一歩足を進めるたびに、真っ赤な水たまりができる。
それは動脈性の出血を意味していて、このままじゃ出血多量で死んでしまう。
「さん、動いちゃダメだ!!」
「やめろ!!本当に死んじまう!!」
いくらオレたちが叫んでも、は止まってくれない。