第5章 雨の後
「でえええええ!!!」
声をあげながら逃げる兄弟と私が動きだすのはほぼ同時だったが、スカーの反応は想像よりも早かった。
間合いを詰めて攻撃をしようとしたが、それを逆手に取られしまった。
スカーの右手が私の顔面へと迫ってくる。
この手に触れたら最後、私は内側から破壊される。
命を狩り狩られるなんてイシュヴァール以来だ。
指先がこめかみに触れる。
それを左手で弾けば、体勢が少しだけ崩れた。
その隙を狙い、腕と襟首を掴み、背中に担ぐように持ち上げそのまま地面に叩きつけた。
東の国では背負い投げと言うらしい。
「……すげえ」
「感心してる場合ですか。何か縛るものを錬成してください」
騒ぎを聞きつけた大佐が到着するまでこの男は拘束しておかなくては。
普通であれば地面に叩きつけらた衝撃で、数分はまともに動くことができない。
だから油断した。
この男は手練れだと言うことを理解していたはずなのに、この瞬間、私は忘れていた。
だから身体を起こしたスカーの手によって簡単に投げ飛ばされてしまった。
投げ飛ばされた私は激しく背中を建物の壁に打ち付け、呼吸が一瞬止まった。
ピキッと嫌な音が聞こえた。
痛みで霞む視界に見えたのは、ひび割れている壁面。
それは少しずつ範囲を広げていく。
最悪だ……。
「!!」
「逃げて、さん!!」
逃げてと言われても、背中を打ち付けたせいで身体がしびれているし、吐き気もしてなかなか思うように動かせない。
その間にも老朽化した壁は亀裂を走らせる。
そしてついに、壁は崩れ瓦礫が私に降り注いだ。