第5章 雨の後
「兄さん、大丈夫?」
「ん、ああ」
返事のないオレを相当心配してくれたんだろう。
アルがオレの顔を覗きこんでいる。
軽くアルに謝って、俺は息を軽く吸って吐いた。
一体どれほどここに座っているんだろうな。
随分と身体が冷え切っている。
しかし、だからと言ってこの場を動くことはまだできない。
「なんだかもういっぱいいっぱいでさ。なにから考えていいかわかんねーや。……昨日の夜からオレ達の信じる錬金術ってなんだろう……ってずっと考えてた」
「……『錬金術とは物質の内に存在する法則と流れを知り、分解し、再構築すること』」
「『この世界も法則にしたがって流れ循環している。人が死ぬのもその流れのうち。流れを受け入れろ』」
師匠にくどいくらい言われた言葉だ。
オレもアルもわかっているつもりだった。
でも、わかっていなかった。
わかっていなかったからあの時、母さんを……。
「そして今もどうにもならない事をどうにかできないかと考えている」
オレはバカだ。
あの時から少しも成長しちゃいない。
「外に出れば雨と一緒に心の中のもやもやした物も少しは流れるかなと思ったけど顔に当たる一粒すらも今はうっとうしいや」
「でも……肉体が無いボクには雨が肌を打つ感覚も無い。それはやっぱりさびしいしつらい。兄さん、ボクはやっぱり元の身体に……人間に戻りたい。たとえそれが世の流れに逆らうどうにもならない事だとしても」
2人で一緒に元の身体に戻ると決めた。
それが錬金術の法則を無視したことになるなら、錬金術というものは、一体何が正しくて何が間違いなんだろうな。