第5章 雨の後
「行くぞ」
これ以上ここにいる理由はない。
大佐の後に続き、私とリザさんはタッカーさんの家を後にした。
憲兵には何か妙な動きがあったらすぐに知らせる様にと伝言し、東方司令部へと戻った。
「……大丈夫か?」
「何がですか?」
「先ほどから顔色がよくない」
大佐が横目で私の顔を窺っているのが分かる。
"アレ"がほんとうにニーナさんだと思いたくなかった。
だけど彼女の面影はちゃんとあって、それを認識するたびに腹の奥が重たくなり吐き気がする。
嫌でもニーナさんの笑顔や仕草が浮かび、まともに合成獣を見ることができなかった。
"アレ"はほんとうにニーナさんなんだと思わされた。
だけど、私は軍の人間だ。
"これしき"のことで気が滅入るわけにはいかない。
「雨だからですかね。気圧が低いと少しだけ体調が悪くなんです」
「………そうか」
気づいているはずなのに、大佐は何も言わなかった。
―――それから数時間後。
タッカーさんと合成獣が何者かに殺され、遺体として発見された。