第5章 雨の後
――・アールシャナside――
タッカー氏の家の前に憲兵を2名程配置させた後、私達は家の中に入った。
居間には彼の姿はなく、もしかしたらまだ研究室にいるのではないかと思い足を運べば、やはりそこにタッカーさんと合成獣が静かに座っていた。
壁に寄りかかって座り込むタッカーさんは、返り血のついた銀時計を大事そうに握り締め何かぼそぼそと呟ているが、何を言っているのかは定かではない。
合成獣はそんな彼に甘える様にひたすら寂しそうに鼻を鳴らして鳴いている。
そんな姿にされてもなお、父親へ愛情を求めるのか。
そんな姿になってもなお、父親に愛情を与えるのか。
なんて健気で、なんて憐れなんだろう。
無意識のうちに私は視線を下へと移動させていた。
これ以上、彼女の姿をこの目に映したくなかった。
「明日の朝、中央司令部へと貴方を連行し数日後に裁判を行います。そこで貴方への判決が下ります」
マスタング大佐の言葉にタッカーさんはゆっくりと顔をあげた。
何かを言おうと口を開きかけたが、「……そうですか」と静かに答えるだけだった。
「なお、ただいまをもって国家資格は剥奪となります」
「………そう、ですか」
大事そうに握り締めていた銀時計は、まるでスローモーションのようにタッカーさんの掌から滑り落ち、カチャンと音を立てて地面に落ちた。
「外に憲兵を配置させました。何かあれば憲兵までお願いします」
私の言葉にタッカーさんは何も言わなかった。
ただ、私を見て、少しだけ笑ったような、そんな気がした。