第3章 運命は須くハリケーン
彼女は冒険がとてもとても大好きだ。毎年必ず飛び出して、暫く帰らないぐらいずっと夢中なのだ。未知との出会いと新しい発見に心を躍らせ、冒険で得られた経験によってポケモン達と一緒にもっと強くなれる素晴らしい機会……。そして冒険に焦がれる所以(ゆえん)は、一度も顔を見たことがない祖父にある。祖母から話を聞いただけの筋骨隆々で喧嘩が最強な6mの大男、船員となった家族を息子の呼んで愛するエドワード・ニューゲートという海賊の船長……。ある日、一人で島に漂着していたという、異世界から来た不思議な人間……。
シフォンの実家と敷地の島は、不思議な事が多すぎるので大変有名な土地である。一見して島自体は世界地図の一番端っこに小さく表記される程度のものだけども、凡ゆる地方が広がる方角と反対側は大嵐ばかりで晴れる時など一切無く、分厚い暗雲と濃霧のせいで全く先が見えない状態。そしてこの島にシフォンの血族以外の者がいない理由として、原理は未だに不明なままだが、どれほど海を泳いで空を飛んでも誰も島に近づけないのだ。シフォン達だけが出入り出来る。
なのでシンオウ地方という場所の神話ポケモン、時間を司るディアルガや空間を司るパルキアなとが関与している説や、或いは島そのものに何らかの力があると思われた。しかし何十年かに一度は人間が島に漂着して来る事があり、それが必ず当時の未婚者と気が合う異性であった為、先祖は代々その者達と夫婦になって暮らして来た。更に何百年かで稀に異世界からの人間も訪れてしまう事があり、その時は島ごと其方の世界に行ってしまう。シフォンから見た祖母の年代が正にそうだったようだ、祖母は祖父と本来の世界より摩訶不思議で途方もない冒険をしたそうだ。ポケモンがいない代わりに凶暴な生き物が辺りを闊歩し、天気が気まぐれに荒れたり、凶悪な海賊という人間がうようよしている。そんな過酷な世界で常識外れの大冒険するお話だ。
シフォンは巷のお伽話より家族の実話に大いに憧れ、この世界にも似たものがあるかもしれない、そんなロマンも求めて齢10で旅に出たが……結果は無かった。異世界の事だから無理もない話なのだが、いかんせん祖父を祖母の話とWANTEDと書かれた手配書でしか知らないシフォンは、少しでも憧れに近づきたい理想を抱えていた。