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私が嫌いな私なんて○したっていいじゃないか(短編集)

第10章 沼


二学期中間テスト前の話
―――

『あの、赤羽さん…』
「ん、どうしたのひつじちゃん」

『……次のテスト対策に教えて欲しい部分があるんですけど…』

放課後、彼とそんな会話をした。
「…珍しいね。あんまり人から教えてもらってるイメージとかないけど…」
『…夏休み中にも勿論万全を尽くしていたのですが、なんせ”あの件”で勉強時間が大幅に削減されたので…』

あの件、はわかばパークの園長さんに怪我をさせてしまったことだ。先生から授業中止を言い渡され前回のような結果が出せない可能性を踏み込んで成績優秀な彼に頼んだのだ。自分でも少し気が引けると分かっていたがそれを振りほどけない理由があった

「それだけ、”優秀じゃなくちゃ駄目な理由”があるって事?」
『それは…後で詳しく話すので…』
「良いよー。ちなみに俺あのタコみたいに優しくできないけど」
『承知の上で頼んでいるので。自己責任、という事で』












「で、ここがa=21x+(y+3)だから、こっちから引っ張ってきて代入するの」
『なるほど…』

市営の図書館で静かな声が聞こえる。ああいう事言っておいて普通に分かるまで教えてくれる。そう言うとこだぞ顔だけイケメン…

『ありがとうございます、後は全部解けそうです』

「ふーん。
で、今回も高得点狙わなきゃいけない理由は?」

『そんなに聞きたいんですか?』
「だってひつじちゃん俺みたいに建前気にしてる感じないし」

『はいはい、分かりましたよ。

別に大したことじゃないです。ただ今まで通り落ちられなくなっただけで』

「プライド?それとも強要?」

『強要です。E組に落ちた時にも同じこと言われました。過去に良い成績を取ると落ちぶれた時に手を抜いていたって思われるんですね』
「……」

『前回の成績を見せた時に親に言われたんです…「お前の成績は自分の教育方針が正しかったお陰だ」って…


私…一瞬何を言ってるのか分からなくて…


悔しくて…



ああ、この人は…会社でもこうやって他人の手柄を奪ってるんだって妙に確信したんです。

褒めなくていい。そんな自惚れは最初から期待してない…けどせめて、”私の腕”だって認めて欲しかった…』

勉学ってある意味孤独だ。「受験は団体戦」なんて謳い文句があるけど団結しているのは結局精神だけなのだから
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