私が嫌いな私なんて○したっていいじゃないか(短編集)
第7章 今度は貴方の隣で…
そもそも彼女はそう言う”面倒ごと”から避ける為に部活には所属していなかったらしいから。
「遊夢ちゃんは、何かここに思い出とかあるの?」
ふと気になって聞いてみた。
『……
音楽は好きです。ここでコンクールの練習にピアノを弾くことも自分を忘れる大好きな時間でした。
でも、周りは私自身が楽しむことを許さなかった』
「!」
『私、よく何度か浅野生徒会長とデュエット?みたいな事をしていたんですけど…覚えてます?』
「あ、ああ。僕もあの時数回だけど見た事あるから…
凄い話題だったよね(苦笑)」
―――
「聞いた?今日浅野クンと早稲田さんの合奏があるそうよ!」
「嘘!」
「行きましょ、行きましょ!」
才能を持つ二人が同じステージに立つことはよくあった。浅野君がヴァイオリン、遊夢ちゃんがグランドピアノなのはお馴染み。そうしようとしたのは理事長の意向なのか、本人の意志なのかは誰にもわからない。しかし、話題性には十分で音楽室はすぐに人が一杯になっていたのを今でも覚えてる
((パチパチ!!
「素晴らしい!!」
「最高のタッグだ!」
「相変わらず君の音楽の才能には毎度驚かされる」
『貴方に褒められるとは…光栄です』
「この調子で本番も頼むぞ」
『……はい』
けど、遊夢ちゃんはいつも浮かない顔をしていたのがいつも頭をちらついていた
―――
『私、あの人との音楽は嫌いです。私は所詮バックボーンとしか見られていなかった。
失敗しない、それでいて完璧である私を彼はずっと求め続けていた。その方が都合が良かったんでしょうね…』
―――
「そんな余計なことはしなくていい!
君はその楽譜通りに、僕の指示に従っていればいいんだ」
―――
『彼の支配欲から逃れたかった。
自分が楽しめない音楽なんて、私は…嫌いだ』
「そっか」
だから…
『でも、幾らここにいい思い出があろうとなかろうと、もうきっとここに座ることはないのですから』
そう言うと遊夢ちゃんは悲し気に黒く冷たい鍵盤を撫でた
『渚さん…一つお願いがあるのですが。
”それ”で一曲演奏してくれませんか?』
「え!?」
何を言い出したのかと驚きながら彼女の指す指と自分の持っているトロンボーンを何度も見比べた