第5章 投影
合図と共に走り出したキャルを名前が操作するドローンが追いかけ、ヒロはストップウォッチを眺めながら険しい顔をしている。
名前の操作するドローンのモニターを横から見せて貰った。
キャルは指定されたコンテナ倉庫の周りを一周しているようだ。丁度300mになっているのか、船と陸地の接合部分を跨いだ瞬間、ヒロはストップウォッチを押した。
名前「…」
キャル「タイムは?」
ヒロ「…51.8秒!合格ラインだ。」
キャル「…司令」
名前「嗚呼。合格だよ、着替えておいで。」
名前に嬉しそうな笑顔を向けたキャルは少年のように浮き足だってメインルームへ向かって行った。
名前「…ヒロ」
ヒロ「…」
あまり聞かない低い声で名前を呼ばれ、一瞬ビクッと肩を振るわせ背筋を伸ばしたヒロがゆっくり名前に向き直った。
その表情は重苦しそうで眉間に皺が寄っている。
名前「気付かないとでも思っていたか?」
ヒロ「…」
名前「…ヒロ、答えろ」
ヒロ「いえ…。ですが…正直な所、1秒未満で気付かれるとは思いませんでした。」
ヒロが正直に答えると執事が勢い良くヒロの胸ぐらを掴み、その身体を浮かせてしまった。ヒロも咄嗟に執事の手首を掴むが、その力には勝てないようで上手く逃れる事が出来ない様だ。
名前「シオン、やめろ。…ヒロは正直に答えた。問題無い。それに理由は分かってるし0.6秒足した所で合格ラインだ。ただ…ヒロ、厄介な事に“キャルは気付いている”ぞ。」
ヒロ「!」
名前「…気を付けるんだな…」
執事はヒロを降ろして自分の身なりを整えて名前の後を追ってメインルームに入って行った。