第5章 投影
降谷「…名前が作った弁当が懐かしいですね」
沖矢「…ああ。…」
降谷「如何しました?化の皮が剥がれてきましたか?」
沖矢「まさか。…彼の位置に居たいと思っていただけですよ」
沖矢昴が指差した先で味見を催促されたのか、したのか、髪を耳にかけながら名前がヒロに差し出されるものに口をつけている。
ヒロは特に意識して居ないように見えるが実際の所は分からない。
名前「いいんじゃないか?近いと思う。」
ヒロ「じゃあこれで。次は…」
くるっと身体を回して名前の後ろにあるのだろう冷蔵庫のドアに手を伸ばすと名前は素早く避けてヒロの腕から離れた。
此方が気にしている事は殆ど杞憂に終わるのだろうなと思った。
暫くして2人に運ばれて来た料理には見覚えがあった。
降谷「…これは…」
名前「はまぐりは無くてね。これはこれで美味しいはず。」
降谷「…では、あの時言っていた彼って…」
ヒロ「俺だよ」
驚いた。名前は既に僕に教えられないけど教えようとしていたんだ。
気付けなかったのはヒロが死んだと思っていたからだった。
降谷「…気付けなかったのは俺の問題だ…悪い…」
ヒロ「…ゼロ…?…名前が有能なのは知ってるだろ?気付かれるとよく無いんじゃ無いか?」
確かにそうだ。なんでも1人で抱え込むのは彼女が気付いて欲しくない事や気付かれるとマズイ事だ。ただ、湧き出すこの感情はそれに勝ることの出来ない悔しさだ。
そしてやがてそれは諦められる感情に変化する。
名前「気にするな。それにヒロは喜んでた。」
ヒロ「うまいって言われるのは嬉しいからな」
2人の笑顔で。
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