第5章 投影
降谷said
僕に電話がかかって来たのは数日前の夜中、公安の仕事で帰って直ぐの事だった。
随分久しぶりの番号を少し眺めてから受話器が上がった印を押す。
名前「今お手隙ですか?」
降谷「僕の帰宅を知っているかのようなタイミングでしたよ。どうしました?」
普段なら即答で返ってくるだろう名前からの声が聞こえない。そして思うのは、“本当に帰宅するタイミングを知っていたんじゃないか”という事。
降谷「名前…?」
名前「……」
名前をさん付けでは呼ばずに試してみると喋れない状況なのか、喋れずにいるのか、分からないが返事は聞こえない。
彼女から喋るのを待つ為にその間、風呂に湯を張ったりネクタイを緩めたりと“日常”を淡々とこなした。
名前「…来週、予定を空けられる日ってありませんか」
大分待っていた名前からの言葉は何かの誘いだったが、俺の予定を遠回しに“予定一杯で休みなんて無いですよね”と聞いている様だった。
降谷「そうですね…急用が無ければ、4日後でしょうか。」
名前「では、その日に工藤邸隣の阿笠邸のチャイムを鳴らして下さい。…おやすみなさい。」
分かりやすく忘れ難い言い方をされると直ぐにその電話は切られた。
何かから逃げるような通話の切り方に違和感を覚えた。
4日後阿笠邸を訪ねると出て来たのは沖矢昴。
名前に促されるまま、大通りへ向かいながら彼の知らない話をすると止められる事もなくただ名前と楽しい会話を続けられた。
此奴が名前を抱き寄せる迄は。
引き剥がそうと思ったが直ぐに離れた為にそれすら出来なかった。
シオンという執事とキャルという運転手を紹介されたが、2人とも名前の事を“統合総司令”と呼んだ2人だった為、初めて会ったという感覚はまるでしなかった。
あの時はただ館内とこの2人の存在を教えてくれただけで、後の事はいつも通り教えられないと言われ、直ぐに船を出た。