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櫻の里

第1章 少女、理不尽を知る。


翌朝、朝早くに起きて侍女達にあれこれと色々な所をいじられる。髪を綺麗に梳かしてそれなりに良い着物に変える。動きやすいように短めの袴スカートに二尺袖の着物。どちらも上質なもので小倉屋で仕立てたものだ。そしてフォンテーヌから仕入れた編み上げのブーツ。割と気に入っている格好だった。

『行ってくるわ』
「お気をつけて行ってらっしゃいませ」
『ええ』

稲妻城下を歩きながら沢山のことを考えた。不安でいっぱいになる。何も悪い事はしていない筈だし、咎められていることもしていない。堂々としていれば良いのだと必死に言い聞かせた。稲妻城の門の前に着くと沢山の見張りがいて、かなり尻込みする。

「何者だ」
『櫻小路商会代表、櫻小路 薫です。将軍様から招集の命を受けて参りました』
「通れ」

軽く頭を下げて城までの道のりを歩いた。階段を登るたびに息苦しい。天守閣へ着くと、また見張りに同じように説明して通してもらった。

「入れ」

天守閣へ行き、とある部屋へと通された。そこには既に、私が見知った人物が首を垂れている。嫌な予感がしたが、考えないようにして少し離れたところで同じ体制を取った。しばらくすると前方から足音が聞こえる。つまり、将軍様がお見えになったという事だ。

「鳴神浄土永遠の神、雷電将軍に神里 綾人がご挨拶申し上げます」
『鳴神浄土永遠の神、雷電将軍に櫻小路 薫がご挨拶申し上げます』

嫌な予感がしたが、予感が的中しそうだ。隣にいるこいつがいる時点で碌なことにならないのはよく分かっている。

「そう畏まる必要はありません。顔を上げてください」

雷電将軍がそう言ったので、私も彼も頭を上げた。雷電将軍の隣には鳴神大社の八重宮司も立っている。

「ある事情があって2人に集まって貰いました。稲妻の鎖国を解いた今、他国へ受け入れの意思を示さなければなりません。まずは文化から他国の文化を奨励していきたいと考えています。そこで、2人には秘密裏に動いて欲しいのです」
「『仰せのままに』」

雷電将軍の命には逆らえない。それはよく分かっている。分かっているけど、不安が大きい。

「文化の受け入れも大切ですが、北国の執行官がのさばっている現在、うまく調整しなくてはなりません。2人にはその役割を果たしてもらう為に、結婚して頂きます」
『はい…?』

最後の一言は、聞き間違いだと信じたい。
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