第3章 妻、初仕事をする。
「薫、綾華から聞いたよ。体調が良くないんだね」
『問題ないわ。寝れば治るもの…』
なんとか夫婦の寝室に転がり込み、敷布団へなんとか上がり込んだ。忘れていたが今日は初夜だ。これからこいつの相手かと思うと、本当に泣きたくて堪らない。
『寝ていても良ければ、抱いて良いから。好きにして』
「まさか。体調不良の妻を抱くほど落ちぶれていないよ」
眠いという感情もあるが、媚薬のせいで身体が熱いし、誰かに触ってもらいたい気持ちもあった。けれど自分からそんな事を言う気はない。嫁いできたとはいえ、プライドはあるのだ。
「お酒が弱い方だったとはね」
『稲妻の酒が苦手なの。モンドやスメールの酒だったら此処まで変にならないわ』
子供舌なのかもしれない。甘いフルーツベースの酒でないと美味しく飲めないのだ。
『はぁ…横になった方が気持ち悪い…』
布団から起き上がってそばに置いてあった椅子に座った。寝れなさそうだが、こちらの方が幾分か楽だ。
「背中をさすろうか?」
『良いわよ別に…気を使わなくて』
水を少しだけ飲んで壁にもたれ掛かった。もうお酒は飲みたくないと宴会の度に思う。けれど、こういうことを生業にする以上避けられない。今になってじわじわ媚薬が効いてきたような気もする。遅効性だったのか、私の耐性の問題なのかは良くわからない。
「顔が赤いね」
『さ、触らないで…』
今触られたら絶対にダメだ。触って欲しい気持ちが抑えられなくなる。
「何か盛られたね?」
『さぁね』
「言って欲しいんだ。心配だから」
『毒ではないわ。毒だったら此処まで気持ち悪くならない』
毒にも耐性はある。ちょっとやそっとじゃ反応はしないくらいに耐性はあるのだ。勿論なんともなくなるまでの苦痛はもう2度と味わいたくないほどのものだけれど。
『綾華嬢が飲まなくて良かったもの、とだけ言っておくわ。私じゃ無かったら大変な事になってたわね』
「もしかして、媚薬かい?」
『折角言わないように配慮してたのに、台無しにするし…』
こいつにバレたのが一生の恥だ。どうしろと頼むこともできない。というか頼みたくない。
「もし苦しいなら…」
『だから言ったでしょ、好きにしろって。貴方に全て任せるわ。抱くなり、寝かせるなり、好きにしたら』
「薫はどうして欲しいんだい?」
狡いと思った。わざわざ私に尋ねるなんて、狡い人だ。