第3章 妻、初仕事をする。
自分が持っていたぐい呑みに爺様方が持っていた徳利を取り上げて勢いよく注ぐ。そのまま飲み干しつつ、綾華嬢の背中を押した。私は既に成人しているので、お酒も飲める。美味しいとは思わないが。
「ははは!豪快な飲みっぷりだ!気に入った!」
正直凄く気持ち悪いし、もう一口も飲みたくは無い。稲妻の酒は私には合わないのだ。モンドやスメールの酒の方が美味しく飲める。
『全く、幾ら無礼講だからと言って、未成年にはダメですよ?次からは私に下さいましね』
余裕ぶってなんとかその場を離れるが、すぐに違和感がした。身体が熱い。勿論酒を飲むと熱くはなるが、そう言った気持ち良い熱さではない。不快な熱さだ。商人で他国に渡ることもあるので薬物による交渉失敗を防ぐ為に、櫻小路家では幼少から薬物耐性を付けているが、綾華嬢がもしこれを飲んでいたらあのジジイ共にどうにかされていたかもしれない。これは、間違いなく媚薬の類だ。
『最悪だわ…』
綾人の方を見ると別の人と話している。助けは見込めない。かと言って此処で花嫁が退散しては外聞が悪い。耐えながらやるしかなさそうだ。
「薫様…!」
『あ、あぁ、綾華嬢。大丈夫?』
「私は口を付けていませんので問題ありませんが…」
それを聞いて安心した。綾華嬢になんともないならそれで良い。
「体調が悪そうです、薫様。もう戻った方が…」
『いえ、大丈夫よ。此処で帰ったらあいつ…綾人に全て任せてしまう事になる。それはダメよ』
「私が代わりに…」
『先程の老々の叔父様方がまた来ないとも限らないでしょう?綾華嬢は私の親族のお相手を頼めるかしら。私が安全だって保証するわ』
綾華嬢に比較的酔っ払っていない私の親族を任せて、私はまた他の人のご機嫌取りに向かった。もう限界の体になんとか鞭を打ってやり過ごす。2時間ほどで宴会もお開きになり、皆を見送った後、廊下に倒れ込んだ。
「薫!」
『大丈夫だから…』
不快だった。今日はずっと。したくもない結婚に媚薬に酒。もう泣きたくて仕方ない。でも此処で泣いてはダメだと必死に足に力を入れる。このドレスだって脱がなくてはいけない。
「すぐにお着替え致しましょう」
侍女が私を連れて行き、ドレスを脱がして寝間着に着替えた。締め付けが無くなった分、だいぶ楽になる。吐けば楽なのかもしれないが、吐く事を躊躇してしまう種類の人間なのだ。