第3章 妻、初仕事をする。
披露宴が始まる前にお色直しがある。神前式では稲妻らしく色打掛を着用したが、この結婚は文化の発展を目的としている。よって、披露宴は他国の文化を受け入れて、ドレスで行う事になった。ドレスは色打掛と共に結婚報告をした次の日に選び、結婚式まで間もない中即決できたのは、私がそこまで衣装に拘らないからだろう。髪型も神前式では纏めていたが、披露宴では横紙を編んで下ろすようにした。
「お綺麗ですよ、薫様」
『どうもありがとう』
異国のドレスは着慣れない。肩を剥き出しにするデザインなので、すごく緊張する。
「旦那様がいらっしゃっているようですが、お通し致しますか?」
『構いません』
すぐに襖が開く音がして、私の数の後ろで足音が止まった。
「貴方は何を着ても似合いますね」
『ありがたきお言葉、感謝いたします』
「敬語はやめて下さい。もう夫婦になったのですから、お互い敬語は辞めませんか?」
『貴方がそう言うのなら』
逆らうつもりは無かった。彼がそう言うなら従っておいた方が波風が立たないのは知っている。思う所は沢山あるが。
「それと、先程の言葉はお世辞ではないよ」
『分かったから…』
彼は、また昔のように話してほしいだけなのかもしれない。子供の頃、何も考えずに付き合えていた事が懐かしい。
『黒紋付きから着替えたのね』
「君が着替えたように、私も他国文化を受け入れる姿勢を見せなくてはいけないからね」
白いタキシードと呼ばれるものを着ているが、そちらの方が似合っている気がする。いつも白い衣装を着ているからかもしれないが。
「そろそろ行こうか。皆が待っている」
『ええ』
この披露宴が私の初仕事だ。これから社交を主に行なっていく私にとっては、この場がとても貴重なものになる。
「新郎新婦、ご入場です」
襖が開いて、皆の顔が見えた途端、歓声が上がった。どちらかと言うと明るい声色であったので、歓迎されていないわけではなさそうである。短い挨拶があった後、宴会が始まった。皆料理を食べながら、酒を浴びるように飲み、どんちゃん騒ぎだ。しかし周りを見渡してみると、綾華嬢が壁に追い詰められていた。3人の老々の爺様達が酔っ払って絡んでいるのだろう。あのままでは可哀想なので助けてあげる事にした。
『あら、おじ様方。未成年にはお酒はダメですわ。お酒なら、私に寄越してくれませんと』