• テキストサイズ

櫻の里

第2章 少女、結婚する。


数日後、あれやこれやと準備に追われ、遂に結婚式当日。綺麗な色打掛を着る事になった。白無垢を勧められたが、綿帽子が好きではないのと、別に嫁ぎ先に染まる気もなかった為、自分の好きな青色を選んだ。薄い青から裾に行くにつれて段々と深い青になっていくものを。髪は他国文化を受け入れる事を広く示す為洋髪に。モンドの結婚式で広く親しまれている髪型になった。

「新郎様がお越しです。お通ししますか?」
『ええ。お願いします』

最初で最後の花嫁衣装。少し嬉しいけど、複雑ではあった。けど、誰と結婚しても結局同じ気持ちで迎えていたのかもしれない。

「準備はできましたか」
『はい』
「こちらを向いていただいても?」

お望み通り、席を立って夫になる人へと向き合った。普段白の衣装を着ているので黒紋付きがなんとなく違和感を感じる。

「素敵ですね」
『どうも』
「何か、気になることでも?」

距離を詰めてくる所は慣れない。彼はなんの気無しにやっているだけだと思うが、私は基本人とそれなりに離れて話したいので彼とは合わなかった。

『いえ…。普段、貴方は白の衣装を着ていますから、黒紋付きがなんとなく落ち着かなくて』
「これが正装ですから、仕方ありませんね」

自分でも何か違和感があるのだろうか。普段の着物も着にくいだろうけど、黒紋付きも着にくい事は変わらないだろう。

「そろそろ行きましょうか」
『はい』

自分の気持ちとは裏腹に素晴らしい晴天だった。天までこの結婚を祝福してしまうのかと、嫌な気持ちになる。

「顔色が悪いようですが、大丈夫ですか?」
『大丈夫です』

神里家からそのまま鳴神大社に参進の儀をするには過酷すぎるので、ある程度崖を登った所から始める。鳴神大社から階段を降りていくと、小さな祠がある所で崖が崩れている。その手前から参進の儀を始める予定なのだ。

「ふふふ、お綺麗ですね」
『な、なんですか…いきなり』
「いえ、そう思っただけです。白無垢も見てみたい気持ちはありますが、その格好がきっと一番素敵ですね」

お世辞にしては丁寧に褒めるなと感心した。腹の底で何を考えているかわからない人でも、女性を褒める事はしてくれるらしい。

『あ、ありがとうございます…』
「さぁ、行きましょう。八重宮司も痺れを切らしているでしょうから」

どうやら八重宮司は私たちの結婚が楽しみらしい。
/ 25ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp